2009年04月03日

正体不明の何物かに襲われる日々

2009年04月03日(金)

キャー!!
女は思わず悲鳴を上げてしまった。
鎌の様に湾曲した刃で襲われたのだ。
サクッと皮膚に線が刻まれる。
細い赤い線が重なる。
赤い線はそのまま盛り上がるかに見えたが、重力に引っ張られて、つつつ…と皮膚の上を流れ始めた。
「 痛い!」
女は美しい顔をしかめる。
女はOL時代によくコピー取りでコピー用紙で指を切った。
大した傷ではないのに、妙に痛かった事を思い出していた。

今、女を襲っているのは刃渡りは大した物ではない。
ドールハウスのミニチュア位の小ささなのである。
カッターナイフの刃よりも、もっともっと薄いもの。
しかし、それが無数に無数に襲って来る。
女は言い様の無い恐怖に襲われた。
こんなに小さな傷だって、こんなに僅かの出血だって、何千何万と云う傷を負ったら、失血死してしまうかもしれない。

何故こんな状況に追い込まれたのか、女は分かっていない。
気がついたら襲われていたのである。

「 一体、アタシが何をしたって言うのよ!? 」
理由なんかもうどうでもいい。
一刻も早くこの状況から逃れなければ!
女はよろける足元をとにかく前へ前へと進めた。

湾曲した刃物は尾いて来る。
まるで目が見える様に正確に女を目掛けて真っ直ぐに向かって来る。
女は更に悲鳴を上げた。
今度は黒い球の様な物が無数にぶつかって来たのだ。
黒い球は小さく重量は無い。
しかしこれも無数に襲って来るのだから堪ったものでは無い。
ひょうが当たるかの様な感触だが、これも休み無く当たり続けたら身体はどうなってしまう事か。
女は黒い球を両手で払う。
払っても払っても、黒い球の攻撃は止まない。
湾曲した鎌の攻撃も止まない。
女はよろよろと、その場から逃れ様と虚しく歩を進めるだけ。
手で払っても効果は無し。
足で蹴っても効果は無し。
叫んでみても攻撃は変化無しだ。

その内に、耳も不愉快な状態に置かれていた事に気付いた。
刃物と黒い球を追い払う事に夢中で今まで意識上に上って来なかったが、そう言えば先程から嫌な音がずっと耳の皷膜を刺激していたのだ。
黒板にチョークを立ててつつつ…と音を引き摺る様な耐え難い音。
女は激しく頭を振ったが、神経を逆撫でにする音は止まない。

心身共にヘトヘトになった女はそれでもノロノロと歩みを進めた。
ここで足を止めてしまったら、また新たな敵が襲って来る様な気がして、それが底無しの沼に引き摺り込まれる様に怖かった。


…………。
1週間が経った。
女が置かれた状況は変わっていなかった。
女は連日の様に湾曲した鎌の様な刃に襲われ続けた。
小さな黒い球も相変わらず女を襲い続けた。
耳を覆いたくなる不愉快な音も、ずっと皷膜の内側までをも震えさせていた。

前方に建物が見えて来た。
女は目を疑った。
あの建物の中に入れば、ずっと自分を襲い続けている攻撃から逃れられるかもしれない。
建物の中には、化け物がいるのかもしれない。
でも取り敢えず、今自分を襲っている、この敵からは何とかして逃げたい。

女は意を決して扉を開けた。
「 こんにちは。」 明るい声が女を迎えた。
部屋に居たのは、ショートカットの女性であった。

「 時間になったので調弦を始めましょうか? 」
「 はい。先生。宜しくお願いします。」

部屋にいた女性はヴァイオリン講師。
逃げ回ってヘトヘトになっていた女はヴァイオリンを習っているニヘドンだったのだ。

ニヘドンは全てを理解した。
私を襲っていた物の正体を。
小さな黒い球は音符で、湾曲した鎌の刃は音符の旗だったのだ。
道理で耳の底には、ゾッとする不協和音がこびり付いている訳だ。
自分がヴァイオリンで出していた音だったのだ。

そう、いつしかニヘドンは深いヴァイオリンの森の中で、音符に襲われる様になっていたのです。
練習しても練習しても新たな敵( 曲 )がやって来るのです。

今日もヴァイオリンのレッスンが有ったのです。
02月20日より E♭ Major の練習に入りました。
第1ポジションでレッスンで練習したり、第3ポジションで練習したり、
リズム・バリエーションをつけたり、様々な練習を行いました。
今日もてっきり、引き続き E♭ Major の練習をするかと思いきや、
いきなり G minor に入ってしまいました!!

ヴァイオリンでG minor を弾いたら、初心者は死ぬるわ!!
上行形 ( じょうこうけい )の指の形が、弦毎に違うんです。
1番線 0-12-3-4
2番線 01-2-3-4
3番線 0-1-23-4
4番線 0-12-3-4

数字がくっついている所は、半音関係の所なので指と指とをくっつけます。
音が1度ずつ上がって行くスケールの練習ですら、楽譜とにらめっこしなければ弾けないのに
実際の曲の楽譜なんて、音が飛んでいるから、もう訳分かりませんって!!
ボン!! 頭爆発ですよ。
「 短調の6番目の音は上行形の時だけ半音高くなる 」なんて、誰が決めたんだよ!!

これだけでゼーゼー言ってしまうのに、また新にエクササイズの曲もやりました。
これが、楽譜を一目見ただけで、気持ちが萎える曲でした。
オクターブの練習なんですよ。
「 ソソラソ シソソソ ドソレソ ミソドソ・・・・・ 」 これ、やめて欲しいんですけど!!
1音ずつ弦を移動すると、隣の弦を触っちゃって、余計な音をいっぱい出しちゃうんですけど!!
ピアノで弾くのは、そんなに不都合は感じないのですが、ヴァイオリンは死ぬわ。

レッスンは、それだけでは終わりませんでした。
02月の27日から練習を始めた サミー・フェインの 「 右から2番目の星 」 をやっと先週
終了しました。 これがねえ、楽譜を見ると、一見簡単そうなんですよ。
テンポも遅いですしね。  ポジション移動も、そんなにしません。
なのに難しいんですよ!! これは発表会で弾く訳でも無いのに、しゃかりきに練習しましたよ。
そして今日、新しい曲に入りました。 またサミー・フェインですよ!!
「 慕情 」です。 1955年にアカデミー歌曲賞を受賞したあの名曲ですよ。
先生から指番号を教えて頂きましたが、それだけではいきなりは弾けませんでした。
どこの弦なのか、右往左往して思いっきり変な音を出しまくりました。
サミー・フェインよ、これ以上二へドンを苦しめないでおくれ~!!
「 慕情 」もテンポは遅めです。 だから弾けると思ったら大間違いだぞよ。

03月27日から練習し始めたクリーゲルのメヌエット ( ♪ソミド ラー、ファレシ ソー って奴 )
を次回仕上げるとか先生言ってるし。
ちょっと待って下さいよ! 次のレッスンの04月10日までに
スケール、コード、エクササイズ、メヌエット、慕情の5曲を練習せいって事ですか!?
04月05日から 横浜開港祭の合唱隊 ドリーム・オブ・ハーモニーの練習も始まるのですが・・・・・。

また、逃げ惑う夢をみてしまうのでしょうか・・・・・・・。
やっぱ、ヴァイオリンを平然と弾いてしまう石田~リンは、ただものではないわ。


***** 「 正体不明の何物かに襲われる日々 」 ・ 完 ************




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