2009年04月24日

「サミー・フェイン暗殺計画」 未遂に終わる。

2009.04.24(金) 12:50

エレベーターの扉が開いた。
中に乗っていた女が、エレベーターホールの左右に素早く視線を走らせる。
エレベーターホールには誰もいない。
ふー。 女は溜め息を漏らした。 極度の緊張の為か、額にうっすらと汗をかいている。
女は腰まで届く長い髪を振り乱していた。
女の背中には、長さ80センチ程のケースが背負われていた。
自動小銃でも入っているのだろうか。
女はロビーの中を真っ直ぐに進む。 1番奥のカウンターの椅子に腰を下ろす。
女は目だけで、絶えずロビーの隅々を見やっていた。

女の背後で軽い足音がした。 ロン毛女はビクッと背中を緊張させ、振り返る。
「 こんにちは。」 ショートカットの女がロン毛女に声をかけた。
ショート女も、長さ80センチ程のケースを手に持っていた。
2人の女達は意味ありげに目配せをすると、互いに押し黙って何かを待っている。

数分後、3人目の女が現われた。 彼女はセミロング・ヘアーだ。
彼女もやはり他の2人と同じ様にケースを持っている。
ごくり。 女達はつばを呑み込む。
いよいよ 決行の時が来た。 失敗は許されない。

*************************************

時は遡る。
2009.02.27(金) 13:40

3人の女達は、レパートリー集の34ページを開くように先生から指示された。
「 右から2番目の星 」の楽譜であった。 今日からこの曲を練習する事になるらしい。
前奏4小節を含め、40小節の曲である。
先生が指番号を教えてくれるのを、各自楽譜に記入して行く。
約32小節を 初心者が泣いて喜ぶファースト・ポジションで弾く。
「 ふっ。 ポジション移動で苦しまなくて良い曲じゃん。 」
舐め舐めの態度を丸出しにするロン毛女だった。
先生と一緒に、ざっと弾いてみる。
ロン毛女は全くついていけなかった。
「 ちぇっ! 家で特訓だな。 」
しかしこの日は 新しく E♭ Major のスケール練習に入り、この練習もしなければならない。
ブラームスの交響曲第1番 第4楽章のテーマ部分も、納得の行く出来ではなかったので、
これもさらに練習をしたい。
E♭ Major のアルペジオも何とかしなければならない。
スウィング・ジャズ調の8小節のエクササイズも決着を付けなければならない。
この時、ロン毛の女の心に 「 右から2番目の星 」の作曲者であるサミー・フェインに対する
憎悪の小さな火種が芽生えた。

2009.03.06(金) 13:45

「 右から2番目の星 」のレッスンが始まった。
1週間自宅で練習した割には、成果が上がっていないようだ。
セミロング女が言った。 「 ポジション移動もそんなに無いのに、どうして難しいんでしょうね? 」
分からん。
ただロン毛女の場合、前奏でテンポが揺れるの弱点なのだ。
この女は、テンポを揺らされると、もう着いて行けない体質なのだ。
日本に稲作が伝来して以来、女の先祖一族はずっと稲作に従事して来た。
田植えをする時のリズムは、「 1,2。 1,2。 」 なのである。
テンポを揺らしてしまったら、稲を等間隔に植える事が出来なくなるではないか。
テンポは揺らしてはいかん。 DNAがそうなっているのである。
「 右から2番目の星 」は、楽譜に Moderato と書かれている。 中位の速さだ。
それが2小節目accel. と書かれている。 アッチェルランド。 段々速くなのだ。
もう2小節目で段々速くですか? だったら最初から速くしておくっていうのは駄目なんですか?
3小節目で rit. と書かれている。 リタルダンド。 段々遅くである。
むむむむ・・・・・・・・。 1小節毎にテンポを変えなければならない?
ここは前奏なので、ヴァイオリンは弾かなくて良いのであるが、しかしめまぐるしく変わるテンポを
聴いているだけで、自分のパートのテンポが維持出来ない体たらく。

21小節目には、こう書かれている。
poco piu mosso ( ポコ ピュウ モッソ ) 少しさらに動きを持って。
つまり少し速くという事だ。
28小節目には、こんな言葉が出て来る。
poco rit. ちょっとゆっくり。
ちょっとって、どんだけなんだ? 
29小節目は、こうだ。 Andante rubato ( アンダンテ・ルバート )。
自由な速さで。 自由ってどんだけ? 先生の指示ではモデラートよりゆっくりで良いとの事。
34小節目で、rit. 
35小節目で、 a tempo ( アテンポ )。 元の速さで。
つまりモデラートに戻る。
38小節目rit. 
「 あのさ。 そんな風に態度をコロコロ変えられたら、付き合うの難しいよ。 
  もっと、自分のポリシーを貫いたら? 」
ロン毛女は、ルロイ・アンダーソンの「 踊る子猫 」もまだマスターしていない。
理由は同じく、頻繁にテンポが揺れるからだ。

同じカテゴリー(ヴァイオリンレッスン)の記事画像
フォーレの「 シチリアーノ 」
ヴァイオリン・アニマルと化す。
痛い話 〜 杉劇アンサンブル 練習5回目
ヴァイオリンに3日間、漬け込んでみました。
ヴァイオリンの臨界期をぶっ飛ばせ!!
杉劇アンサンブル 第2日目
同じカテゴリー(ヴァイオリンレッスン)の記事
 フォーレの「 シチリアーノ 」 (2011-02-15 20:53)
 生涯の伴侶を置き忘れた女。 (2011-02-07 09:49)
 ヴァイオリン・アニマルと化す。 (2010-11-09 21:14)
 二へドンのヴァイオリンの発表会が有るよ~!! (2010-10-11 09:24)
 痛い話 〜 杉劇アンサンブル 練習5回目 (2010-02-21 18:10)
 ヴァイオリンに3日間、漬け込んでみました。 (2010-02-14 19:08)

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。